私と父とRDR

私の父は今から10年ほど前に膵臓癌を患って他界したのですが、

彼は生粋の「西部劇マニア」でありました。 

 

今や懐かしのVHSビデオテープで、

ずらりと並ぶ父自慢の西部劇コレクション。

そんな立派なビデオコレクションがあるにも関わらず、

世にDVDが出回るや、同じ物を改めてDVDで揃える程のマニア。

 

キャビネットを漁れば革のホルスターに収まったリボルバーがごとり。

ソファーで眠る猫を相手にクイックドローの練習をしたり、

銃口が塞がっているモデルガンなので危険はありません

 猫は何してんだこいつ・・・みたいな顔で半目で父を見てました

 

銃をくるくる回して腰のホルスターに格好よく収めるアレを

練習していたら、足の指に落として転げまわったり、まあそんな人です。

ちなみに旧千円札に描かれていた夏目漱石に激似。

 

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Red Dead Redemption

そんな父は幼少の私にある英才教育を施しました。

来る日も来る日も西部劇を見せてきたのです。

正直、子供が見てもそんなに面白いものではありません。

 

しかし幼少時の刷り込みというのはなかなか強烈なもので、

未だに私の抱く男の理想像と言えば荒野のタフガイだし、

獰猛な悪漢相手であろうと、キレると構わずライフルをぶっ放す、

普段は清楚な女教師に興奮するようにもなりました。

 

大人の男の飲む酒と言えばアメリカン・ウィスキーをストレートで。

どうせジョン・ウェインが好きなんだろって?

いいえ、そこはやっぱりヘンリー・フォンダ

 

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いとしのクレメンタイン

 

私は人よりも早く家を出て以来、実家には滅多に戻ることはなかったのですが、

アジア放浪の旅の終着点であるインドにて、聖なるガンジスを眺めながら、

「自分の残りの人生はただひたすらにゲームに捧げよう」

という悟りを開いていた際に突如もたらされた

 

チチ キトク スグ カエレ

 

の報により、何十年かぶりに実家に住み着くことになりました。

本人は癌という割に元気だったので、ちょうどいい機会だから

たまには実家でゆっくり過ごせという意味もあったのでしょう。

働いて小金を稼いだらまたどこかに出ていくと思われたのか、

軟禁に近い状態で実家に拘束され、予期せぬニート状態に。

 

こうなると開き直ってゲームで遊ぶしかありません。

その時にふと思いつき、XBOX360で「Red Dead Redemption」を起動。

画面いっぱいに広がる1900年初頭のアメリカの風景。

 

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私は居間でゴロゴロしていた危篤状態なはずの父を呼びました。

 

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「なんだよこれ!」

 

第一声がこれでした。

父はゲームこそやりませんが、

私が小さい頃からひたすら猿のように遊ぶ姿を見てきていますから、

間接的にはゲームの進化の歴史をチラ見してきた人とも言えます。

 

セガサターンで遊んだバーチャファイター1の

ジャッキーステージの青空の美しさを褒めていたことがありましたので、

もしかしたらそういう最新技術とかに興味を持つ人だったのかも知れません。

 

RDR1を最新ゲーム・・・というには発売から少し歳月が過ぎていたけれど、

画面に描かれた西部劇の世界には素直に驚いていたようです。

 

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これはな、西部劇のゲームなんだ

今のゲームはこんなにすごくなったんだ

それでな、この投げ縄をな、あそこの悪漢にな、投げるとな

 

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ズザザザザザ!

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「うおおおおおお!」

 

父親のこんな嬌声を、聞きたかったような聞きたくなかったような。

やってみるか?と尋ねるや、恐る恐るコントローラを持つ父。

ゲームに触れる父の姿を見たのはこれが最初で最後でしたね。

 

このボタンでこのガンマンが動く

で、こっちのこのボタンで馬に乗って、あとこれを押すとこうなって・・・

 

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「これか?こうか?」

 

そうそう

で、あいつに向かってロープを投げてみて

 

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「お、お?おお・・・おおお? お!」

 

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ズザザザザザ!

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「うおおおおおおおおお!!!」

 

父は大喜びで悪漢(実際は何の罪もないその辺を歩いていたおっさん)を

ボロ雑巾になるまで馬で引きずり回して大興奮していました。

 

その後、ちょっと引かれるかな?

この歳になって父親から説教されたらどうしよう

そう心配しながらも私は好奇心を抑えきれずにある提案をしました。

 

縛り上げたやつを線路に放置すると楽しいことになるぞ、と。

 

あっちへうろうろ、こっちへうろうろと挙動不審な動きをしながら、

私の教え通りに悪漢(実際は何の罪もないその辺を歩いていたおっさん)を

縛って担ぎあげ、線路の上に転がして放置する父。

 

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拾ってきたイメージ画像

しばらくその場で静かに待っていると・・・

やがて聴こえてくる蒸気機関車の発する産業革命の音。

 

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シュッシュッポッポ

シュッシュッポッポ

 

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「おい、いいのか? こんなことして本当に大丈夫なのか?」

 

ううん、良くはないかも・・・でもゲームだからいいんだ。

子供にやらせたら色々とまずいかもしれないけど、

遊びだってわかってる大人がやることならいいんだ。

 

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「そういうものか」

 

そこに轟く蒸気機関車の汽笛の音!

弾け飛ぶ悪漢!(実際は何の罪もないその辺を歩いていたおっさん)

画面を舞う真っ赤な血飛沫!

それを見て大笑いする気狂い西部劇マニア親子!

 

「ワハハハハ!」
「ガハハハハ!」

 

それから半年ほどして治療の甲斐も虚しく、父は死にました。

父との生前最後の楽しい思い出がこれでした。

 

親孝行をしたのか親不孝をしたのかはわかりません。

でも初めて見る父のあの下卑た笑顔を思い出す度に、

改めてゲームって最高だよなあ!と強く感じるのです。

 

以上がレッドデッドリデンプション1にまつわる、

とってもハートフルな思い出エピソードでした。

後日、RDR2の思い出に続きたいと思います。

 


Red Dead Redemption "Far Away" Music Video (Red Dead Redemption OST)